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・傘を盗まれ、幼馴染の傘に入れてもらった。途中で雨が止んだけど、彼は傘をさしたままで……?
「本格的な夏が始まり、ゲリラ豪雨や台風など局所的大雨が増える季節。けどそんな雨の後の青空は、いつもより爽やかに感じませんか?」
隣を歩く幼馴染の○○君が、そんなことを言った。意味が分からなかったので、私は聞き返した。
「ねえ、何なの、それ?」
「いや、何でもないですよ。ただ、ちょっと、そう思っただけで」
「気になるなあ」
「気にしないで下さい」
そう言われても、気になる。他にも気になることがある。訊いてみる。
「最近○○君、私と話す時、丁寧な口調になるよね。どうして?」
彼は口ごもった。
「それは、その……」
私はハッキリ言った。
「私が先輩の彼女になったからでしょ」
彼は黙り込んだ。やはり図星だったのだ。
「そんなの、気にすることないじゃない。私たちが幼馴染だってことと、何の関係もないんだから」
すると彼は何か言った。でも雨音にかき消されて聞こえなかった。私たちはしばらく、無言で歩き続けた。そのうち、雨が上がった。それでも彼は傘を差したままだった。私も、相合傘の下を歩き続けた。
・雨上がりの空にかかった大きな虹。よく見ると、虹の上を歩いている人がいて!?
学校の下足場で幼馴染の●●が「傘を盗まれたから、入れて欲しい」と言ってきたとき、嬉しさと悲しさが半分半分に湧いてきた。ずっと好きだった彼女が、部活の先輩と交際を始めたと聞いて、とてもショックだったから。一緒に歩きながら、自然な話をしようと思ったけど、無理で、駄目で、何を言っているのか、自分でも分からなくなった。雨が上がったことにも最初は気づかなかった。彼女も、何も言わなかったし。でも、そのうち、空を見上げる気力が湧いてきた。前を向いて歩こう、そう心に決めたとき、視界に虹があった。よく見ると、その虹の上を歩いている人がいた。僕は自分の目が信じられず、隣の●●に言った。
「ちょ、ちょっと、おいおい、あれ、あれ見て! あれ!」
僕が指差す先を見て、●●は叫んだ。
「虹の上に人がいる? 何なの! あ……あれ、あの傘、あれ見て!」
彼女の指差す先を見て、僕が訊ねる。
「何なのさ?」
「あれ、盗まれた傘、私の傘! 虹の上の男、私の傘を差している」
僕は彼女の傘を見て言った。
「雨傘だけど日傘にもなる傘だったよな。晴れてる空の上は紫外線が強そうだから、差した方がいいよ」
「人の傘だよ、私んだよ!」
愛用の傘を盗まれた怒りのために、彼女の目は血走った。
「傘泥棒だ、許せない! 捕まえて!」
僕はやんわりと拒否した。
「それは警察に頼むのがいいよ。犯人は虹の上だから、逮捕は難しいかもしれないけど」
●●は言った。
「あ~そういう態度なんだ。私のお願い、聞いてくれないんだ」
「つーか、できないって」
「可愛い幼馴染のお願い、聞いてくれないんだ」
「それは大好きな先輩に頼んだらどう?」
彼女はブチ切れた。
「嫌味な奴! ちょっと、その傘、貸しなさい!」
僕の手から傘を奪った●●は、それを虹へ向かって投げた。傘は一直線に飛んだ。傘の鋭い先端が、虹の上を歩いていた人間を貫く。
・雨を止ませる魔法で水害から町を救った魔女。しかしそれ以降雨が降らなくなったことで、責任を押し付けられ――。
魔女は激怒していた。
「雨が降らないのは私のせいじゃない。雨を降らなくさせているのは、虹を歩くお天気野郎のせい。あの野郎、私にフラれたことに腹を立てて、嫌がらせをしてやがるんだわ。どうにかしてやっつけたいけど、裁判所から私たち両方に接近禁止命令が出ているから、ちょっかい出したら逮捕されちまう」
魔女は元彼の魔術師と互いの魔術をフル稼働させた大喧嘩をして近隣住民に多大な被害をもたらしたため、治安当局からマークされていた。元彼の魔術師は魔女への恨みを晴らそうと、水害から町を救った魔女の雨を止ませる魔法を勝手に増幅して、今度は逆に日照りを発生させていた。それに魔女が気付いた時は農作物への悪影響が出ており、彼女の評判はガタ落ちしていた。
「畜生、何とかして、奴をやっつけてやりたい……誰か、私の代理として奴をしばいてくれる人は……」
魔女の代理人になったわけではないけれど、勝手に自分の傘を使われたことに憤った●●が幼馴染の傘を投げたのは、既に書いた通りだ。そして、その傘が虹の上の歩行者を貫いたことも述べた。
その後、どうなったのか?
お腹が空いて頭が回らないので、続きは食べてから考える。
食べると眠くなる可能性があるので、そのまま続きを書かずに寝てしまうかもしれない。もし、そうなったとしたら、読者の皆様は各自で、雨の後の青空のように爽やかな青春ラブストーリーっぽい話の続きをx想像して頂けると幸甚に存じます。ちょっと考えていたのが、この幼馴染の二人が傘を投げられた魔術師に恨まれて追われ決死の逃避行をして魔女のところへたどり着く、みたいな荒唐無稽のホラ話です。ちなみに、登場していない先輩というのが……あ、お湯が沸いた。それでは、失礼します。
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