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* * * 「さぁさ、今日はどんな悪戯をしてあげようかえ?」  スプーン欲しがりおばさんは歩行器を押しながら独り言を呟いた。  悪戯と呟いたことから、いつも人を困らせることばかりしているそうだ。歳をとってからどんどん出来ることが出来なくなって退屈になってからは、人の困っている様子を見て楽しむことに明け暮れるようになったとも考えられる。  それからは『これからどんな風にどんな人を困らせようとするか』を考える為だけに何度か立ち止まりはしたが、周りを見ることも無く、車の近づく車道に飛び出していった。  そこへ車のクラクションが大きく響き渡り── * * * 「僕、思うことがあるんですけど──」 「なに?」  スプーン欲しがりおばさんの姿が見えなくなって、更には店内に客の姿も見えないと、男性店員は思い浮かんだように話し始めた。 「欲しいものを欲しがって、さっきのおばさんのように気を強くして、欲しいものを無理矢理で手に出来たとしても、後になってから報いは受けると思うんですよね」  日頃の行いが良ければ、思いがけない幸せを。  日頃の行いが悪ければ、思いがけない不幸せを。  それぞれに応じた結果を受けるだろうと男性店員は考えているそうだ。 「童話のように、願いを何でも叶えてくれる杖を手に出来たとして、持ち主がそれを手にするまでの過程が酷ければ酷い程、その持ち主に災難が降り掛かるのかな?」 「はい、そういうことですね」  童話は柔らかい表現をするものの、考えさせられる場面というのはその都度出逢うことだ。 「報いって例えば?」 「スプーンって食べ物をすくって食べる道具じゃないですか。だから、『すくう』という単語になぞらえた、その悪い事がおばさんに襲い掛かると──」 「おーいっ!! 救急車を呼んでくれー!!」   店の外から大きな声が店内に届いた。
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