『届けたい情熱〜超合金の筆〜』

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/  一ヶ月後。運命のランキング発表日がやってきた。  いつものように16時58分にリフレッシュルームへと滑り込み、姿勢を正して発表の瞬間を待つ。  今月孝久が書いた小説は、時代遅れも甚だしいスポ根青春小説だ。野球部所属の主人公は何度も挫折を繰り返しながら、そのたび立ち上がり、甲子園を目指して一歩ずつ成長していく。気合いアンド根性。アンド努力、努力、努力。  17時になり、ランキング更新の通知が来た。孝久はフゥと一つ息を吐き、ゆっくりと確認ボタンを押下する。  3417位。  現実は非情だった。AIの一言アドバイスはシンプルに、「ジャンルが少しニッチ過ぎるようです」。それでも、孝久の筆はもう二度と折れることはない。  なぜなら…… 「久しぶりに頑張って、外に出てみようと思いました」 「忘れていた気持ちを取り戻せた気がします」 「勇気を貰いました。ありがとう」  以前より数こそ減ったものの、確かな変化を感じるコメントたち。AIにへこへこしていた時には見えなかった、液晶画面の向こう側の人間の熱。彼らに孝久の情熱は間違いなく届いている。  そう、AIの採点が読者アンケートから出来ているというのなら、AIに合わせるのではなく、読者を通じてAIの方を変えてしまえばいい。自分自身の作品の力で。 「よーし、書くぞ!」  まだまだ遠い、本当に、気の遠くなるような道のり。それでも諦めない。  孝久は決意を新たに今日も筆を取る。努力が否定されるような世界なんてもう真っ平ごめんだ。俺は努力で、夢を叶えることができると自分の手で証明してみせる。  そうだな、次の小説のタイトルは『届けたい情熱』なんてどうだろう。 ー了ー
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