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誕生日はいつも雨
私の誕生日にはいつも雨が降る。
梅雨ど真ん中の6月下旬だから、仕方ないことかもしれない。
でも生まれてから11年、一度も晴れないのはひどいと思う。
そして明日に迫った12回目の誕生日も、雨予報だ。
“小晴”という自分の名前が、叶わない願いの象徴みたいに思えてくる。
「まーた天気アプリ見てる。そんなすぐ変わんないのに」
「晴れたら翠雨くんと二人でお出かけだもん。仕方ないよね〜」
「二人ともうるっさい!」
リビングのソファーに座りスマホ画面と睨みっこしていたら、双子の妹たちが覗きこんでからかってきた。
毎年似たようなやりとりをしているせいか、多少怒ったところで二人はひるまない。
「お姉ちゃん本当に翠雨くん好きだよね。私もお姉ちゃんを祝いたいのに」
「私も〜」
「それは……だって翠雨と外に出る機会ってこの日しかないし」
「知ってるけどさ。お姉ちゃんよく好きになったよね」
「分かる〜翠雨くんイケメンだけど話できないし、引きこもりで何考えてるか分からないもんね」
「そう? 翠雨は優しいし表情豊かだと思うけど」
翠雨は向かいの家に住む幼馴染だ。
ちょっと特殊な生活をしているから妹たちは遠巻きにするけど、もったいないなと思ってしまう。
実際に接してみたら、翠雨は優しい人だって分かるのに。
筆談で語りかけてくる言葉はいつも穏やかで、クラスの男子と同い年だなんて信じられない。
私の話を聞きながら笑ったり困ったり、豊かな表情で相槌を打ってくれる。
「本当? 私筆談してくれないと分かんないな」
「翠雨くんもお姉ちゃんのこと好きなんじゃない? 告ればいいのに〜応援してるし」
「こ、くはくって! 余計なことばっかり言うなら二人ともあっち行って!」
「ここリビングだから」
「お姉ちゃんが自分の部屋行ってよ」
言われなくても、顔のほてりが恥ずかしくてこの場にいられない。
2体1なのも不利だ。
反論の代わりに二人を睨みつけてから、逃げるように自分の部屋へと急いだ。
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