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妹たちが生まれたころ向かいに引っ越してきた、同い年の男の子。
透き通るみたいな色素の薄い肌と、空色が混ざる瞳にツヤツヤな黒髪は、昼と夜の空を纏っているみたい。
目が合いふわりと微笑まれたら、その日あった嫌なことを忘れてしまう。
見た目通りに透き通った声をしていそうな翠雨だけど、出会ったころから話す声を聞いたことがない。
ちょっと事情があるの、と翠雨のお母さんは言っていた。
だからか家にこもりきりで幼稚園にも学校にも来たことがない。
私の家は学区の端っこだから、一緒に登校できる人がいないし、帰りも途中から一人になってしまう。
翠雨と行けたらどんなにいいだろうと思っていたけれど、叶わないまま卒業することになりそうだ。
一日のほとんどを部屋ですごす翠雨は、本を読んでいるのが大半で、たまに窓から外を見ている。
外で遊んだこともなくて、私が家にお邪魔するのがほとんどだった。
うちに来ることもあるけど、その時も本を読んでいることが多い。
だけどここ数年、私の誕生日だけは一緒に外へ出かけてくれる。
いいかげん部屋で会うのに飽きた私が頼みこんだからで、翠雨は最後まで渋い顔をしていた。
けど、一年で特別な1日だけでもとすがったら頷いてくれた。
それなのにいつも雨が降るから、うちの車に乗って近くの小さな水族館に行くくらいしかできない。
車の運転はお父さんだし、なんならお母さんと妹たちも一緒に乗って行く。
最初はそれでも良かった。部屋以外の場所に翠雨が存在しているってだけでワクワクして嬉しかった。
だけど今はそれじゃ満足できない。
青空の下を、二人だけで一緒に歩いてみたかった。
水族館もいいけど、紫陽花がキレイな公園とか、食べ歩きだってしたい。
翠雨は植物の本をよく読んでいるから、植物園や動物園もよさそう。遊園地にも行きたい。
どんな顔するんだろう。
ああでも普段家にいるから、あまり連れ回したら疲れすぎちゃうかな。
そんな妄想をするのは楽しかった。
それに二人だったら、家族の目がない分いつもと違う話ができる。
たとえば――
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