てるてる坊主

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てるてる坊主

 起こったことが信じられなくて、作ったばかりのてるてる坊主をまじまじと見つめたときだった。   「どうしても明日を晴れにしたいかぃ?」 「やっぱりしゃべった!」 「静かにしろぃ。もう一度聞くぜ。明日を晴れにしてほしいか?」  こんなヤンチャっぽい子を作った覚えはないんだけどな……と頭の隅で考えていたら、じっと目を覗きこまれた。  心を読まれたような気がして、思わず背筋が伸びる。    いろいろツッコミたいのは置いといて、繰り返される問いへの答えは一つしかない。 「晴れにしたい。できるの?」 「できる。よーく見とけよ!」  どんな原理か、てるてる坊主は自らクルリと回転し吊るしてあった紐を切ると、真っ白な傘に姿を変えた。   「傘?」 「普通の傘とは違うんだぜ。どんな雨が降っていても、すぐ晴れる優れモノよ」 「すごい!」 「ただし、開いているときだけな」 「え?」 「傘を開けば雨はやむ。閉じればまた降り出すってわけよ」 「何で? 逆じゃないの?」 「普通とは違うって言ったろ。そういう仕様だ」 「でも、傘さしてたら翠雨に近づけないよ」 「二人で入ればいいじゃねーか。相合傘ってやつさ」 「相合傘……」  逆に近すぎる。  その状態で告白して、ごめんなさいされたら……いたたまれない。  せっかくのお出かけなのに帰りたくなるかも。  なら帰り際に言う?  そんなタイミングをはかる余裕なんてあるだろうか?  ぐるぐる思考が回る。  回って回って……とりあえず、全部いったんおいておくことにした。 「なんで……今までこんなことなかったのに」 「それはよぉ、お前さんの気持ちに感化されたんだ。一途さが気に入った!」 「あ、ありがとう。がんばるね」  逆に弱気になってきたなんて答えたら、元のてるてる坊主に戻ってしまうんだろうか。    ううん。傘関係なく晴れてくれたらいいんだから。  予報が変われば、傘の力を借りなくても二人で出かけられるんだから。  そしたらほどよい距離をあけて歩けるし。  何度見てもアプリの予報は同じだけど、一抹の希望を抱いて次の日を待った。
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