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お出かけ
次の日は、予報どおりに朝から雨が降っていた。
しとしと優しい雨だけど、雨粒が大きいから濡れても平気とは言いがたい。
「車出すかー?」
お父さんの声がする。毎年恒例だから、今年もそうだと思っているんだろう。
だけど、でも。
今の私にはてるてる坊主の傘がある。
「あれ?」
「お姉ちゃん新しい傘?」
「そう。これさして行くから大丈夫。行ってきます」
妹たちの生暖かい視線に気づかないふりをして玄関を出る。
扉を閉めて深く息を吐くと、一気に傘を開いた。
すると、本当に雨がやんで雲から晴れ間がのぞいてきた。
「すごい」
空模様をよく見たくて傘を開いたまま足元に下ろす。
すると黒い雲がまた太陽を隠そうとしたから、あわてて頭の上に傘を戻した。
「言い忘れたけど、開いててもさしてないと意味ないぜ!」
「遅いよ!」
ワハハと笑うてるてる坊主の声を誰かが聞いていないか確認するけど、今まで雨が降っていたせいか道には人の気配がない。
車一台分の道路を渡って翠雨の家にたどり着いた時には、傘越しでも太陽の光を感じるくらいに晴れてきた。
どんな仕組みなんだろう。雲の動きを見たいけど我慢する。
チャイムを鳴らそうとして、指が震えているのに気がついた。
初めてだ。
誕生日に晴れた。
嬉しい。
これなら翠雨と二人で出かけられる!
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