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「ごめんなさい。私のせいだ……」
見上げてくる翠雨の表情がぼやけて、私は自分が泣いてるのに気がついた。
翠雨は何度かまたたいてから私をじいっと見つめた。
曇り空、周りの景色も色が乏しくて、そのなかで翠雨の瞳だけが晴れている。
「私、翠雨の目の色が好き」
最初にいいなあと思ったのも、たぶん瞳の色だった。
「話を聞いて笑ってくれるところも、ゆっくり歩くところも好き」
言葉にしなくても気持ちが通じると教えてくれたのは、翠雨だ。
「翠雨が好きなの。もっともっと一緒にいたい。いろんなところに行って、一緒にいろんなものを見たい」
こんな訳の分からない終わり方は嫌だ。
「……だから消えないで」
これ以上ないと思っていた雨の勢いが、いっそう強くなる。
一つ一つ形が見えそうなくらい大きな雨粒が私たちや地面を叩きつけて痛いくらいだ。
――なのに、どうしてだろう。
こんなときなのに、雨の音なのに、まるで拍手するみたいに弾けた音に聞こえたんだ。
「小晴」
耳元で呼ぶ声は、初めて聞くはずなのにそんな気がしなくて、冷えて強張った心をほぐしていく。
それが合図だったみたいに、あれだけ激しく降っていた雨がピタリとやんだ。
しかもびしょ濡れになったはずの全身が、出かける前と同じように乾いている。
「僕も好きだよ」
こわごわと瞼をひらけば、さっきと同じ澄んだ瞳が私を見つめていた。
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