【3】出会い

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 俺はがしっと月桂の肩を両手で掴んだ。  やっと見つけたんだ。絶対に逃さねぇ。 「筆を返してもらいに来たんだ。お前の母、風凛(ふうりん)が五年前に『翠星(すいせい)』って筆を、鳳月庵(ほうげつあん)から借りてるんだ。貸出期限が過ぎたから、筆と貸し賃を払ってもらおうか」 「……」  月桂が不意に黙り込んでうつむいた。緑の瞳にみるみる涙が滲んできて、小さな拳が溢れてきたそれを拭っている。 「おい、どうしたんだ」  月桂はうつむいたまま囁くように呟いた。 「母さんは……死んじゃった」 「なんだって?」 「私は、間に合わなかった……グスッ……後一週間早く、西陵にたどり着ければよかったのに。母さん、西陵に緑をもたらしたいって言ってて……でも体を壊してずっと臥せってたんだ」 「月桂」  月桂の涙が止まらない。拭っても拭ってもそれは溢れ出てくる。  俺は黙ったまま月桂の着物を掴む力を緩めて、そっと頭を抱えこんだ。 「思い出したぜ。西陵は……生気を吸い取る『九黒(クコク)』の気がなぜか濃くて、大地は干からびて岩石砂漠になったんだよな。月桂、お前はこんな大地に緑を蘇らせたいと思っていたのか?」
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