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「我願う。【一つ】日輪降り注ぎ、【三つ】水脈合わさりて――」
月桂が手にした命数筆――『翠星』の筆先を、手にした短冊へ押し付け数字の一と三を書いていく。数字の【一】は黄色の光。【三】は青い光を放ちながら、それらはぐるぐると回って重なった。
「【四つ】大地に萌ゆる緑とならん!」
黄色と青色の数字は重なって、ぱっと鮮やかな緑色に輝いた。
そこには数字の【四】が浮かび上がっていた。
これが『色命数術』。眼の前で見るのは初めてだけど。
月桂はえいやとばかりに短冊を足元へ投げつけた。
ぱあっと真昼の太陽が雲間から射したような光と共に、地面の黒い石ころの合間から、小さな草が芽吹いている。
それらはみるみる成長して茂みとなり、そして一本の桂の木が生えて、俺の背よりも高く真っ直ぐに伸びていく。
「すごいなあ……」
成長した木は枝先にいくつもの葉を茂らせていく。
月桂はそれを微動だにせず見つめていた。
なんて子供だ。
植物が育たないという土地で、緑を生み出すことができるなんて。
まあそれを可能にしているのは、師匠の作った命数筆『翠星』の性能もあるんだろうけど。
「すげえよ月桂!」
月桂もまた自分が生み出した大木を見上げていた。が、不意にその体がぐらりと前に傾いだ。
「おい、大丈夫か?」
地面に倒れる前にその体を捕まえる。
顔が真っ青だ。命数筆をぐっと握りしめている手も冷たくて震えている。
閉じられたまぶたがぴくりと動いて、月桂が薄っすらと目を開けた。
「あ、涛淳さん……」
「無理するなよ。お前がすごい『四緑』の使い手っていうのは、ちゃんと見せてもらったからさ」
「ううん。そんなことない。私の力なんて……ほら……」
俺に体を支えられながら、月桂が右手を前に伸ばした。
「なっ!」
眼の前に広がっていた草原はいつの間にか茶色くなっていて、それも黒く染まってしわしわになり、乾いた風に吹かれて散り散りになっていた。あの桂の大樹も、新緑色に輝いていた葉がすべて枯れて地に落ちて、残った幹は老木と化していく……。
「何度やっても枯れてしまう。西陵の大地が命を吸い取ってしまうんです。その原因を突き止めない限り……緑をもたらすことなんてできない。私が色命数術で生み出しても、全く意味がないんです。それに気づいたから、もう伽藍で修行する気力が……なくなってしまった」
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