【4】筆の秘密

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【4】筆の秘密

「月桂……そうか。それでお前は伽藍(がらん)から飛び出したのか」 「はい」  俺はふうとため息をついた。 「すみません。もう自分で立てます」 「お、そうか」  俺は月桂を支えるのをやめて、どうしたものかと腕を組んだ。 「お前の事情はわかったよ。じゃあ、もう『翠星(すいせい)』は必要ないだろ? あと五年分の貸し筆代も支払ってもらわないといけないんだ」 「ちなみに……貸し筆代っていくらですか?」 「『翠星』は上級筆でね。一年で豆銀貨二十枚だから……五年だと百枚だな」 「ひゃ、ひゃくまいって、そんな大金無理です! 払えませんっ!」 「即答だな」 「はい。西陵は貧しくて、外貨を稼ぐ手段が少ないのです。だから私も一人前の『色命数士(しきめいすうし)』になって、その給金を母の元へ仕送りするつもりでいました」 「ふうん……泣かせるなあ。でも月桂、借りたものは返さなくちゃならない、っていうのは、お前も理解しているよな?」 「そ、それはもちろんです」 「お前、『色命数士』の修行を終わらせる気はないのか?」 「うっ……!」
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