【4】筆の秘密

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「別に焦ることはないんじゃねえのか? まだお前は十五才の子供だろ? もっと勉強してさ、西陵の大地の事もよく調べてさ。お前が一人前の『色命数士(しきめいすうし)』になった時、いつかここも緑を取り戻せる日が来るかもしれねぇ。伽藍にはお前よりすごい術者だってわんさかいるし」 「涛淳(タオチュン)さん……あなたは……やさしい方ですね」  月桂がふっと眉の緊張を緩めて微笑んだ。 「仰る通りかもしれません。確かに、私一人の力だけでは西陵に緑をもたらすことなどできない。でも、一人より二人、いえ、多くの色命数士の力を借りたら……いつか、願いが叶うのかなと思えてきました」 「そうだよ月桂! 人は挫折して、でもそこから立ち上がる度に、以前の自分よりちょっとずつ強くなっていくんだ。俺が人に惹かれるのはそういう部分なんだ。ということで、決まりだな」 「えっ?」  俺は月桂の手をしっかりと握りしめた。  もちろん、逃げられないようにだ。 「お前は伽藍に戻って修行を続けろ。それで貸し賃を出世払いで払う! 悪いが『翠星』は一旦、店に返してくれ」 「あ……涛淳(タオチュン)さん……」 「何だ?」 「あのっ……ごめんなさいっ!」  月桂が衣の裾を軽やかに舞わせてその場に土下座した。  額を地面に擦り付けて、俺の前にあるものを。 「え、えええーーっ!?」  月桂の手には、緑の軸に金で蒔絵の文様が施された『翠星』が握られていた。が、筆の軸にはぱっくりと、大きなが入っていたのだった。
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