【4】筆の秘密

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    ◇    人間の月桂がいるので、俺達は歩いて水城(みずき)に戻った。  一週間かかったが、俺は片時も月桂から目を離さなかった。もとい、根は真面目な子供なのだろう。もとより逃げることはせず、俺の後ろをついて歩いてきた。     ◇ 「鳳庵(ホウアン)師匠! すみません。月桂(こいつ)が『翠星』を壊しました! どうしましょう」 「どれ。ほほう……確かに私の『翠星』だ。涛淳(タオチュン)、まずは筆の回収ご苦労だった」  あれっ?  思ったほど師匠、怒っていないな。  それどころか、軸に亀裂が入った『翠星』を、惚れ惚れと眺めている。  俺は絶望感のあまりか、瞳に涙を浮かべている月桂と顔を見合わした。  師匠はそんな俺達は眼中にないようで、作業用の机の上に絹布を敷き、小刀を取り出すと、バキバキと音を立てながら『翠星』の筆軸を引き裂いていた。 「師匠……? 遂に血迷ったか」 「涛淳(タオチュン)、これを見ろ!」  師匠が唇を歪めて、普段は冷酷に見える顔にというのを浮かべている!  絹布の上には、筆から取り出された宝石のような石が三つ転がっていた。
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