【4】筆の秘密

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「お前も母と同じ、優秀な色命数士になればいい。筆の貸し賃も支払ってもらわねばならないからな」  あらら。さっきは『命石』があれば金なんかどうでもいいって言ってたのに。  この師匠ときたら……。 「私は――破門、されるかもしれない。修行中に無断で故郷へ帰ってしまったから。そうしたら……筆の貸し賃、払えないです」 「うーん、思ったんだけど」  俺は月桂と師匠の顔を交互に見つめた。 「師匠。筆作りの手伝いが欲しいんでしょ? 月桂を雇ってみては。俺より数倍手先が器用そうだし。色命数術(しきめいすうじゅつ)が使えるから、筆の出来を確認することだってできるじゃないですか」 「涛淳(タオチュン)さん、何を言い出すんですか。私はそこまでご厚意に甘えるわけには……」 「私は構わんぞ。いつか筆作りをやめて、絵描きになる夢があるのだ。まあ……しばらくは筆屋をするつもりだが」 「だそうだぞ、月桂。よかったなあ!」 「ええっ! それってもう決定ですか!?」 「決定だ。俺も手伝ってやるから安心しな」  こうして月桂は色命数士になった後、鳳庵(ほうあん)の店を継いで「翠鳳堂(すいおうどう)」という筆屋を始めるが、それはまた別の物語。  ちなみに俺も月桂の店にちゃんといるぞ。  店の外に坪庭があって、睡蓮鉢を置いてくれたんだ。  俺は時々魚に戻って(休憩して)、そこから道行く人間たちを眺めている。  いらっしゃい。どんな筆をお探しかな。  ああ、今は「鳳月庵(ほうげつあん)」じゃなくて「翠鳳堂(すいおうどう)」っていうんだ。  鳳庵(ほうあん)師匠は絵を描きたくて、数年前に突然店から蒸発したんだ。あの自由人。でも今の店主、月桂の筆も素晴らしい出来だぜ。  筆を試したいのなら貸し筆もやってる。  お代に関しては心配なく。お客さんが一人前の色命数士になったらで構わない。  いつでも声をかけてくれよな。 (終)
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