【1】師匠と弟子

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 師匠はどうも美しい「色」というのが好きなのだ。心惹かれる「色」に出会うと、花や反物は勿論、おそらく俺が師匠に拾われたのも、俺の目の色が気に入って傍に置きたくなったのでは? と今ならそう思ってしまうのだが考え過ぎだろうか。  そうそう。師匠の紹介をしておくと、名前は鳳庵(ホウアン)(二十五才)といって、この水城(みずき)の都で『命数筆(めいすうふで)』を作る筆匠(ひつしょう)だ。  ちなみに俺は十八歳。名前は涛淳(たおちゅん)。二年前、道端で空腹のあまり行き倒れていたのを師匠に拾ってもらって以来、住み込みで働いている。  ええと、師匠の作る『命数筆』について。これは「色命数士(しきめいすうし)」と呼ばれる、特定の職業の人達が使う筆なんだって。 「色命数士」について俺はあまり詳しく知らないが、この世には「九つ」の生命の色があり、『色命数士』は自らの生気を捧げることで、それらにまつわる力を使うことができる。  生命の色はそれぞれ「色命数(しきめいすう)」という名がついていて、『色命数士』はその数を、『色符(いろふ)』という短冊に自らの『生気』を含ませた『命数筆』で書く事で術を発動させる。  水や炎を操ることはもちろん。天候を変えたり、風を呼んで空を飛ぶこともできるらしい。  俺は師匠に訊ねたことがある。 「『命数筆』を使わないと、『色命数士』は自分の生気を『色符』に書けないのか?」 「そうだ。生気はいわば命の源。『色命数士』は必要以上の生気が体の外に流れ出ないよう『命数筆』でその量を調節する必要がある。粗悪な筆を使うと、まさに命を落としかねない」 「けど師匠の作る筆って、安いものでも銀貨五枚以上するよな」 「当然だ。私の作る筆は一級品だからな! 安売りは絶対にしない。だが代わりに『貸し筆』をしているんだよ。そもそも「色命数士」共は、一人前になるまで給金が出ない。けれど筆がないと修行ができない。そして筆にも術者との相性がある。『貸し筆』なら手頃な金額でいろんな筆を試せるし、気に入ったら買ってもらえればそれでいい。まあ、ひよっこどもが一人前にならないと、私の筆を買うはないだろうがな。ははは……!」  一見、師匠がいい人に見えるでしょ。  でも俺はそれに惑わされたらいけないって感じるんだよね。
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