【2】手がかりを求めて

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【2】手がかりを求めて

 師匠の作る筆は本当に高級品で、一月に一本売れればいい方なんだ。  反対に貸筆(かしふで)業の方は好調で、一週間に十人は新規の客が来店する。  だけど……。  師匠ってどちらかといえば、筆そのものを回収することにこだわっている気がする。回収できなかった筆は、俺が店に来てから一本もない。  筆を回収しない限り、店に入れてもらえないんだ。  筆匠(ひつしょう)としては、自分が作った筆がどこかに行ってしまうことに寂しさを感じるのかな。やっぱりそれも考えすぎかな。  ◇  筆屋『鳳月庵(ほうげつあん)』を後にして、俺は町を北に向かって歩いていた。  大陸の中央に位置する『湖藍(こらん)国』の首都、水城(みずき)。町の中を水路が縦横無尽に走っていて、人々と水が密接な関係にある美しい水都だ。  木漏れ日の落ちる石畳。涼し気な水音のほとりで咲き誇る季節の花々。清水を溜めて作られた洗い場や水飲み場。小さな石橋。  船着き場で客待ちをしている船頭と(はしけ)。その光景すべてが絵になるような美しい都だと思う。  俺の目的地は町の北側に位置する『伽藍(がらん)』という建物だ。俺のお得意先は『色命数士(しきめいすうし)』と呼ばれる術者の方達。  彼らの修行場は、まるで皇帝の住まう宮殿のように広い敷地で、寺院のように荘厳で立派だ。  真っ白な外壁に囲まれており、瑠璃色の瓦を()いた門には金色の扁額(へんがく)が掲げられている。その門を通り抜けると、白と黒の玉砂利がひかれた道が真っすぐ続いており、「色命数(しきめいすう)」を表す九つの色旗(黄・赤・青・緑・紫・茶・碧・金・白)が壁に沿ってはためいている。
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