【2】手がかりを求めて

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 『伽藍(がらん)』は訓練場である『西翼』という五重の塔と、真ん中に八角型の屋根を持つ大きな講堂がある。俺は講堂の手前、来客の受付をするため事務方が詰める小さな建物に近づいて、引き戸を開けて中に入った。 「お邪魔します」 「はい、こんにちは」  俺の姿を見た四十代の男性が、両手を前に伸ばして拱手(きょうしゅ)した。色命数士(しきめいすうし)の特徴だが、彼らは髪を長く伸ばし、耳の横の毛束を頭頂で団子にまとめている。  そこには(かんざし)のように、美しい細工が施された『命数筆(めいすうふで)』が水平に挿し込まれている。  挨拶を受けて、俺も両手の指先を揃えて頭を下げた。 「鳳月庵(ほうげつあん)の者です。師匠の使いで『貸し筆』の回収に来ました。ええと……ここに風凛(ふうりん)っていう、色命数士がいるそうなんだけど」 「風凛……いやあ懐かしい名前だな。彼女はとっくに修行を終えて出ていったよ」 「えっ、やっぱりそうなの。じゃ、今は何処にいるかご存知ないですか? 筆の貸出期間が過ぎているんです」  事務方の男性がうーんと唸った。 「筆を貸す時に記録しないのか?」 「そうみたいです。師匠、とってもめんどくさがり屋で。そのくせ、筆は絶対に返してもらえ! って言うんです。わがままで俺も泣きそうです」  うるる。  俺は袖で目頭を押さえて、ここぞとばかりに困っている風を演じる。  いや、本当に頼るのはここしかないんだよ。  すると事務方の男性が不意にぽんと両手を打った。
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