【2】手がかりを求めて

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「ああ思い出したよ。風凛(ふうりん)の『子供』が修行中でここにいる」 「ほう! じゃ、会わせてくれないかな。お母さんが今どこにいるのか教えてもらいたい!」 「すまん。その子も行方不明だ」 「はあ? ど、どういうこと? あんたさっき修行中だって言ったじゃん!」 「それは間違いじゃない。ちょっとこっちにきて、あれを見てくれ」 「えっ?」  事務方の男が建物から外へ出るように言った。俺は仕方なくその後に続いた。男は五重の塔を指差した。正確には、その塔の高さを遥かに超えて、空高くそびえ立つ一本の巨大な松の木をだ。 「なんだ? あの大木は……でっかいなあ」 「月桂(ゲッケイ)はまだ十五才で、この春ここに来たが、緑を司る「四緑(シリョク)」の大した使い手でな。一週間前、術を用いて訓練場一帯を森にしてしまいおった。他の木は皆で焼いたり土に戻したりしたが、あの巨木だけはご覧の通り青々と葉を茂らせておる」  いてっ。  木を見上げすぎて首の筋をひねっちまった。 「ええと……風凛の子供っていうのが、その月桂っていうんだね?」 「ああ」 「ふうん。それで月桂は何処に?」 「わからない。訓練場を森に変えたその夜、姿が忽然と消えたのだ」 「行く先に心当たりは?」  事務方の男が肩をすくめて首を横に振った。 「さあ。それがわかれば、行方不明とは言わない」 「探さないのか?」 「修行が厳しくて逃げ出す者もいるからな。それらをいちいち探すほど、こちらは暇じゃないんでね」 「そうなの。じゃあ……月桂の故郷ってどこ? ほら、何か理由があって帰ったのかもしれないだろ」 「ああそれなら知っています。『西陵(せいりょう)』ですよ」
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