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気づいたら、独り取り残されていた。雨が降っていて、寒くて、お腹が空いて、心細くて。あたしは啼き続けていた。
どのくらいそうしていたのか。だんだん声が枯れて、もうだめ、そう思って目を閉じたとき。遠くから、がさがさと草を分ける音がした。警戒が、体中をびりびり走った。
現れたのは、籠を背負った男。
「おや、おや、可哀そうに。こんなに小さいのに、ひとりでようがんばった。三毛や、もうだいじょうぶ、お前は俺が、生涯面倒見るからな」
それが、あたしと弥一の出会い。
雨は、いつの間にか止んでいた。弥一は私を懐に入れた。
懐の中は温かくて、あたしの喉はぐるぐると鳴った。
弥一はあたしに、トワ、という名を付けた。
***
弥一は村の外れに、独り暮らしていた。森で柴を刈り、蔓を刈って、籠や笊を編む。薬草になる草や根を採って、薬を作る。それを村で食べ物と交換する。村では、誰もが豊かじゃないけれど、誰もが支え合って生きているんだって。
とりわけ豊かじゃない弥一の暮らしは、あたしが来てからもっと貧しくなった。あたしも自分で食べ物を探すけど、弥一はいつもご飯をくれるから。だけど弥一は言った、幸せそうな表情で。お前がいてくれて、寂しくなくてありがたい。ずっと一緒にいような、と。
あたしも幸せ。ずっと一緒に暮らしたい。貧しくも、穏やかな毎日を。
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