弥一と〇ケ猫

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 暖かくなって、暑くなって、涼しくなって、寒くなって。そんな風にして、季節が3回ほど巡ったころ。暑くなるはずの村は、長い雨に閉じ込められた。雨は何日も降り続き、凍えるほど寒い日が続いた。稲は流され、作物は腐り、寒さで鶏も卵を産まなくなった。森の実りも乏しく、ひどい飢餓が村に蔓延った。  田畑を耕す牛が、実りを運ぶ馬が、卵を産まない鶏が、飢えた村の人々の糧になった。それでも足りず、犬も猫も鼠も虫も。草や木の皮や根も、すべてが、食い尽くされた。村はずれのあたしたちの家にやって来る人はいなかったから、あたしは生き永らえたけれど。        ***  弥一は、貯めていた木の実を食べた。大事に大事に、少しずつ。とはいえ、到底足りるわけもなく、だんだんとやせ細っていった。やせ細った手で、弥一はあたしを撫でる。トワ、いい子だな、ひもじい思いをさせてごめんな、そう言いながら。  いったいいつまで、あたしたちは生きていられるだろう? 村は、まだ雨に閉じ込められ続けている。
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