雨上がり

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「急に雨が止んだだろ? これはカイトが関係しているんじゃないかと思ったんだ。 天気を操れるのは、血筋だからね。 僕は今、たまたま日本にいた。 確かめるために、急いで研究所を抜け出してきたんだ」 「抜け出した?」 「研究所の人間にも、カイトのことは知られたくない」 「どうして?」 「僕は雨を降らせることが出来る。 カイトは雨を止ませることが出来る。 二人がいれば、天気を意のままに操れてしまう。 これは、とてつもなく大きな権力だ。 このことは、誰にも知られちゃいけない。 こんなことが誰かに知れたら、大変なことになってしまう。 僕たちは、僕たちのことを誰も知らない所でこのことを隠しながら、ひっそりと暮らした方が良い」 「行くあてはあるの?」 「それは大丈夫。 こんな形は想像していなかったけど、いつか研究所を抜け出す日が来るかもしれないと、備えはしていた」 車はスピードをあげてドンドンと進んで行く。 多くの人が外に出ていて、街がざわついているのが分かる。 何十年も降り続いた雨が止んだのだ。 人々はみな、雨が降らない今この瞬間が本物かどうか、確かめようとしている。 これから世界は大混乱に陥るだろう。 「ダッシュボードを開けて」 アキトさんが言う。 私は言われた通りにした。 中に入っている黒い物体を目にして、体がこわばった。 聞かなくても、それは本物だと分かった。 「銃の扱い方は分かる?」 「いいえ」 「じゃあ後で教える。 何かあった時、君はその銃で僕とカイトを撃つんだ。 弾は二発しか入っていない。 僕に一発、カイトに一発。 確実に決めなくちゃいけない。 僕たちが誰かに奪われそうになったら、君は僕たちを殺してでも、阻止して欲しい。 この世界の秩序を守るために」 「この世界の秩序を守るために…」 「そう」 私に銃なんて使えるのだろうか? 誰かを撃つなんて考えられないのに、ましてやアキトさんやカイトを撃つ? 二人を撃つくらいなら、私は自分を撃ってしまうんじゃないだろうか。 そうすれば、責任から逃れられる。 私の脳裏にはなぜかくっきりと、私が自分のこめかみに銃を突きつけているシルエットが浮かんだ。
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