雨上がり

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「雨上がりって何?」 8歳の息子のカイトに聞かれてハッとした。 そういえば、この子は雨上がりを知らないんだった。 この子が生まれるずっと前から、この世界では雨が降り続いている。 雨はあがらない。 「昔はね、雨って降ったり止んだりしてたの。 今みたいに、ずっと降ってたわけじゃないのよ。 だからね、雨が止んだ後のことを『雨上がり』って呼んでたの」 「僕、知ってるよ。 昔は『晴れ』ってあったんでしょ? 本で読んだ!」 自慢げなカイトの頭を優しく撫でてやる。 カイトは嬉しそうにしている。 「お母さんがカイトくらいの年の頃はね、まだ雨が降らない日もあったのよ」 当時から雨の日の方が多かった。 だけど、私が小さい頃はまだ晴れの日もあった。 「え!すごい! お母さん、雨が降ってない世界を知ってるんだ」 「そうよ」 「その頃って、恐竜はいた?」 「お母さん、恐竜は見たことないな」 「え、じゃあ、お金は小判だった?」 「さすがにお母さんも、お札も小銭も使ったことないわよ」 手で触って所有できる「お金」が世界に流通していたのは何年までだっけ? 学生時代、テストに出たのに忘れてしまった。 カイトにとっては、恐竜が走り回っていた時代も、小判がお金だった時代も、私が少女だった頃も、全部が同じ『大昔』なんだと思うと、おもしろいような気がしたし、自分がずいぶんと年寄りになってしまったような気もした。
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