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「どうして雨がずっと降っているのか、カイトは知っている?」
「知ってるよ、人間が木を切り過ぎたんでしょ?」
「うん、世間ではそんな風に言われているわね。
だけど本当はね、違うの」
「え?そうなの?」
「うん、カイトだけに教えてあげようか?この世界のヒミツ」
「教えて〜」
カイトの顔が興味津々になった。
「誰にも言っちゃダメよ。ここだけのヒミツだからね。
実はね、雨が降り続くようになったのは、お父さんがてるてる坊主を逆さに吊るしたからなの」
「てるてる坊主?」
そうだった。
毎日、雨が降っているのが当たり前の時代に生きているこの子たちは、晴れを祈ったりはしない。
てるてる坊主を知らなくて当然だった。
「昔はね、遠足とか運動会とか、明日は雨が降って欲しくないな〜っていう時、てるてる坊主っていうのを作ったのよ」
私は壁のビジョンに、てるてる坊主を画像を映してやった。
「なにこれ〜、オバケみたい」
カイトはキャッキャと笑っている。
そうか、初めて見ると面白い造形なんだな。
「このオバケみたいなのをね、窓の所に吊るしておくと次の日は晴れるって言われていたの。
逆にね、これを逆さまにして吊るすと、雨が降るって言われていたのよ」
「お父さんは雨を降らせたかったの?」
「そう、学校の運動会でね、二人三脚をやることになってたの。
お母さんはある男の子と一緒にやることになってたんだけど、その男の子はお母さんのことが好きだったの。
お父さんもお母さんのことが好きだったから、その男の子とお母さんが組むのが嫌で、運動会を中止にしたかったんだって」
「それで、てるてる坊主を逆に?」
「うん、効果はバッチリ。次の日は雨で運動会は中止になった。
だけどね、それから雨が止まなくなったの。
それが今日まで、ずっと続いてる」
もちろん、アキトさんがその頃から私のことを好きだったことも、てるてる坊主を逆さに吊るしたことも、後から知った。
「この世界の重大な秘密を教えてあげる」と言って、学生時代のエピソードを教えてもらった時は、照れくさいけど嬉しかった。
「じゃあ、お父さんがお母さんのことを好きにならなかったら、僕は傘を差さないで学校に行ける日もあったってこと?」
「うーん、お父さんがお母さんのことを好きにならなかったら、カイトは生まれていなかったかな」
「あ、そっか。じゃあ僕は、雨が止まない時代を生きる運命だったんだね」
運命だなんて、本当はどこまで意味が分かって使っているんだろう?
だけどカイトが使う言葉には時々ハッとさせられることがあって、私はその瞬間が好きだ。
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