そのとき私は

1/16
前へ
/16ページ
次へ
 大雨警報が出て、一日中ひどい雨だった。我が家は山から少し離れているし、水路から水が溢れてもだいぶ高いから浸かることもないだろうし、下手に動くよりも家にいた方が安全だろうと、お父さんは言って出勤した。弟の武琉(たける)は小学校が休みになったとはしゃいで、朝からずっとゲーム三昧だ。私も休校を喜んで、友達とオンラインゲームをしたり、SNSやYouTubeを観たり、のんびりと過ごしていた。お母さんだけは情報をこまめにチェックして、心配そうにカーテンを開けて、バケツがひっくり返ったような雨を時々のぞいていた。  昼過ぎには大雨特別警報に変わって、テレビはその話題ばかり放送された。スマホがけたたましく鳴って、何度も避難を促した。いつもは残業するお父さんが、さすがに定時で帰ってきた。  大きな雨音が響いて、寝るのが怖かった。武琉が怖がっていたので、久しぶりに一緒の布団で寝た。    そして翌日、嘘みたいに雨は止んで、明るい空が窓から見えた。土曜日だったので、私は遅い朝を迎えていた。テレビを付けると市内で土石流が発生しているニュースが飛び込んできて目を疑った。 「え、お母さん、これって海水浴場の近くだよね?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加