雨よ、止め。物語の果ての未来のために

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 起きると真っ暗だった。暗闇にスマホの通知の光だけが光っている。丸1日半眠っていたらしい。ついに水区の設備も限界が近い。停電したのだと世志郎(よしろう)は冷静に判断する。ベッドの上に起き上がりメッセージを見る。いつもの相手と、母だ。先にいつもの相手を表示する。  『生きていますか⁉ 徹夜で読んで感動で泣きました! 感想を送ろうとしたら水区が停電とニュースを見て慌てています。無事を知らせてください』  『充電が切れただけと信じてます。世志郎さん、もっと書いてほしいです』  胸がじんと熱くなる。自分の物語は誰かに通じたのか。そう思ったら胸がいっぱいになった。無事だと知らせないと、と思ったら本気で充電が心許(こころもと)なくなっている。迷い、母のメッセージを開いた。  『やっと書いたんですね。あなただけの物語。元同僚という方が送ってくれました。まだ読了していませんが、断言します。あなたは物語を書く人です。これはちゃんと投稿しなさい。あなたの救助を水運に依頼しました。今はどこが安全とは言えないけれど、それでも水区よりは安全な場所に行きなさい。これからも紡ぐあなたの話を楽しみにしているわ、世志郎』  「⁉」  母に送った!? 賛辞がうれしい、読まれて恥ずかしい。半ばパニックになりながら新たな通知メッセージを開く。  『連絡がつかないので何とかしたいと思って、世志郎さんのお母様に連絡しました。それで、物語も送りました。あれをお母様が知らないなんてもったいない! 勝手をしたお怒りも、文句も、生きて帰って来てくれるなら全部甘んじて聞きますから、どうか無事で!』  絶対、生きて文句を言ってやらないと。世志郎はなんでかわからずに目を潤ませた涙を拭って立ち上がる。窓の外にライトの明かりが見えた。手早く着替えて荷物を詰める。  「水運です! ご無事ですか⁉ 佐柳 世志郎さん!?」  雨音に遮られそうになる声が叫んでいる。スマホのライトを付けて窓の外へ振る。屋根を切って助けると伝えられた。程なく大きな音がして部屋に雨が降り出した。どんよりとした空。そこからのぞく黄色い太陽のロゴ。  「今助けます!」  「はい、宜しくお願いします!」  黄色い太陽が鮮やかに映える。雨よ、止め。もう雨は止んでいい。俺はずっと物語を書く。決意と願いを込めて世志郎は伸ばされた手を掴んだ。
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