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雨の日は稼ぎ時の水運、雨の日限定、水区の運び屋。もう1か月近く降りやまない雨に水区に限らず範囲を広げて働きっぱなしになっていた。手が回らない中、統括の汐之矢 耕三は自身の睡眠を削りながら最低限実働要員たちの休憩を確保するように指示を出していた。
「水区25から31、完全水没! 窓が割れる前に住人を助け出せ! 水区外エリア5、高齢者が取り残されている。受け入れ先は追って連絡する!」
疲れているだろうに はい! と切れのいい返事でメンバーが社屋を飛び出していく。もう活動場所や要請は水区に留まらない。まともに機動性を発揮できるのは自分達しかいない状況だ。責任の重圧もあるが、それ以上に誰かを救いたい。汐之矢は要請連絡と同時に通信が途切れた地区に気を配って指示を出す。要請が来ないということは救助要請も飛ばせない状況になっていると推察できる。要請を待っていたら遅いのだ。
「小牧班、休憩あがりました!」
「体調に問題は?」
「ありません!」
「大友班と交代! 水区2番地出向中の医療チームに追加の薬を届けろ!」
「了解です!」
「食事の準備はできているか?」
「ばっちりです。風呂もお湯はり直してあります」
「ありがとうよ! 実働も裏方もどっちが欠けても機能が止まる。お前達も無理はするな」
「はい!」
「汐之矢さんも休憩してくださいね。それこそ統括がダウンしたら水運が落ちる」
「……言ってくれる」
「システム、人工衛星リンク承認されました! 被害状況リアルに拾えます」
汐之矢はメンバーを見渡す。願うように見つめる瞳。誰もが頼りになる、ひとりも欠けてはいけない実力者だ。任せるのも信頼かと表情を緩めた。
「3時間……いや、5時間任せる。できるよな?」
「余裕です!」
なんだよ、めちゃくちゃうれしそうな顔しやがって。じゃあ任せたと汐之矢は席を立つ。しっかり休んでまた指示を出そう。雨の日でも太陽は沈まないと凹んだ世界に示してやろう。
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