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光の柱と虹の空
この大雨の原因、雨を司る能力者 由良 紫苑。国の命令を無視し、雨を降らせ続けてもうすぐ1か月。 まさか地球上の水を意のままにする実験のために国が攫っていたなんて。その国の手伝いをさせられていたなんて。家族全員が気候に関わる能力を持っている由良家。今後、逆賊とされるかもしれないけれど家族の誰もが迷わなかった。実家に戻った紫苑に追っ手はかからないでいた。風を司る兄いわく「それどころではない」らしい。
「美菜、まだ届かいないの?」
地下深くに囚われている妹は水が足りないから眠っていると思われる。紫苑は妹に届くまで降り止むなと願った。あちこちに被害が出て、犠牲者も出て、それでも7年経ってやっとつかんだ情報を無駄にしたくなかった。家族を取り戻したい。
「美菜……」
『排水施設が崩落しました! ご覧ください、たった今、排水施設が崩落! その勢いで大量の水が地下へと流れ落ちていきます!』
ニュースキャスターの興奮した声がテレビから響いた。水区の排水を担っていた排水施設の地盤がついに限度を超えた水によって崩されたのだ。施設が沈み、割れて抉れた地面に水が流れ込んでいる。紫苑は祈るように目を閉じた。
「水……」
どれくらい眠っていたのだろう。由良 美菜は周囲に満ちた水の気配に目を開けた。突然攫われて、水を操らないと帰さないと脅された。美菜は水を操ることはできるが姉の紫苑のように雨を司る能力者ではない。水が在れば操れるだけだ。水がないと熱くて苦しくなるから絶えず水が必要だった。
本来の美菜の能力は……おそらくまだ家族の誰も気付いていなかった。自分も含めて。切り捨てられたが1研究者の仮説は当たっている。大気同調。それが美菜の能力だった。地球温暖化を感じ取り過ぎて、大気を操る能力にまで持って行けず自己防衛のために目覚めた能力が水を操る力だ。水無くして国の思惑通り水を意のままにできるはずがない。
「お姉ちゃん?」
紫苑が泣いている。帰らなきゃ。美菜は警報や怒号が響くのを無視して水を操って拘束を壊した。雨、水たくさん。冷たくて気持ちが良い。美菜の目覚めに気付くも水没し始めた施設内、みな自分が大事。一瞬助けた方が良いのかなと思ったけれど止めておく。ほとんど眠っていたけれど、自分を閉じ込めていた人達にそこまで優しくしようとは思えない。下手に助けてまた囚われるのは御免だから。
「私、帰る」
水が龍のように動いて美菜の体を乗せて上昇を始めた。地面も、壊れた建物も全部突き破ってひたすら地上を目指す。白い白い自分の肌。お日様に当たらなくなってどれくらい? お日様に会いたい。家族に会いたい。想いが迸った。
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