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親友とのすれ違い
釈然としないものは残るものの、今日も仕事が待っている。
地元の農協の経理は、気難しい父がやっと許した就職先だ。
遅刻なんてした日には、すぐに辞職願を書かされるだろう。
明里は手早く朝食を作ると身支度を始めた。
小三の時に母が家を出て行って、父は残された娘を哀れに思ったのだろう。いっそ過干渉とも言えるくらいに明里に過保護に接した。
門限が厳しいために部活もろくに参加できず、合宿はおろか修学旅行にすら行けていない。
大学進学を希望しても、自宅から通える学校がないことを理由に反対された。
専門学校への進学すら遠すぎると渋い顔をされ、就職の内定先には怒鳴りこまれ……
就活に苦労していた頃のことを思い出して、思わずため息が出る。
あまりの過干渉に、大切にされているくすぐったさとは別のモヤモヤした感情が湧き出てきて困ったものだ。
たまらず学校で瑞希に愚痴ったところ、気色ばんで詰め寄られた。
「横暴すぎるわ! まさかおじさん、明里を一生家の中に閉じ込めておくつもり!?」
ただ愚痴を聞いて「大変だったね」と笑ってほしかっただけなのに……
瑞希のあまりの剣幕に、明里はただただ戸惑うばかり。
「何を言ってるのよ、大げさだわ。ただ、ちょっと過保護すぎて困るなぁって……」
「過保護なんてもんじゃないわ。これは立派な虐待よ!」
「虐待なんて酷いわ。お父さんは私を産んだあの女が出て行ってから、男で一つで私を育ててくれたのよ。養ってくれてるだけでも感謝しなきゃ」
自分を捨てた母とは違い、たっぷりと愛情を注いで育ててくれた父を悪く言われて明里は憮然とした。
「その、事あるごとに育ててくれたとか、養ってくれてるって言葉が出てくるのがおかしいのよ。だいたい、お母さんが出て行ったのもちゃんとした理由が……」
「いくら瑞希でも、お父さんを悪く言うのは許さないわ。それから、あの女の話はしないで」
明里はなおも言い募る瑞希の言葉をぴしゃりと遮って会話を終わらせた。
今思えば、あの会話の後から瑞希との関係がぎくしゃくしだしたのだ。
そして、明里が衝撃的な事実を知ったのはそれから半年……卒業を間近に控えたある雨の日だった。
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