願いが叶う丘

1/2
前へ
/10ページ
次へ

願いが叶う丘

「天の川見に行こうぜ。明日の夜!」  金曜日の夕暮れ、帰り支度をしていたら友人の椎橋(しいばし)に誘われた。は?と聞き返すと、彼は日焼けした顔にシワを寄せて満面の笑みを見せる。 「願いの叶う丘ってのがあってさ、そこで天の川に願い事すると叶うんだって」  願い事をするのは天の川じゃなくて流れ星だろう。何言ってんだ。 「ほら、明日七夕じゃん?」  七夕の願い事は短冊に書いて笹に飾るんだろ。天の川にするもんじゃない。 「ともかくさぁ。行こうぜ!」 「行けないよ。テストも余裕ないし」 「ウッソだぁ。休みも挟むしさ、大丈夫っしょ」  こんなことを言う友人に冷めた視線を向けてしまうのは薄情だろうか。  高校3年生、受験生になって、常に勉強に追われている。毎月のように模試を受けては一喜一憂している。しかも今週から来週にかけて期末テストも行われており、こっちも気を抜くわけにはいかない。今日だってこの時間まで自主勉をしていたのだ。 「他の奴誘えよ」 「俺はお前と行きたいの!」  なんでだよ!  本当は僕だって、天の川を見に行きたい気持ちはあるさ。でも僕は行くわけにはいかないんだ。どうしようもない事情だってあるんだから。 「椎橋(しいばし)、分かってるだろ。僕、ビックリするくらい雨男なんだ」  何を真面目な顔で言っとるんだと思われるかもしれないが、僕は本当に雨男なんだ。どうか笑わないでくれ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加