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僕が一通り話し終えると、椎橋は「なるほどなぁ」と納得したんだかなんだか分からない相槌を打った。
しばし、沈黙。まだ店の外からは雨音が聞こえている。
「……ちなみにさぁ。この雨、やませられそう?」
あぁ、もう。一番面倒なことを言われた。反射的にそう考えてしまい、椎橋に謝罪されて僕は頭を抱えた。
「あー、今話した通り、やませられる保証は全くない。でもどうしてもってことなら、一応方法は分かってるから試すことくらいはできる」
「そっか」
椎橋は少し嬉しそうな顔をした。おい待て、期待できないって言ってるんだが。おーい、なんでこの心の声は無視するんだ。呑気にアイスクリーム食うな。
あーあ。もう逃げられやしないんだろうな。こいつの誘いに乗った時点で全部決まってた。
もしかしたら、願いの叶う丘だとかいう噂も嘘だったのかもしれない。なんか色々雑だったし。
だとしたらすべては僕と超能力について話すため――。
「いや、願い事したいのはほんと」
椎橋はスプーンをビシッとこっちに向けて言った。あぁ、そう。
「俺さ、俺らみたいな奴らがのびのび暮らせる場所作りたいの。だからそれをお願いしようと思って」
「はぁ」
「悠斗には話しておきたかったんだよね。変な能力持ってる仲間に会ったのって初めてだからさ!」
「な、仲間?」
今の僕はただの雨男だって言ってるのに。
椎橋は心底楽しそうにクリームソーダを飲み干した。気づけば外は薄っすらオレンジ色がかっている。僕も慌ててアイスティーを煽った。
「お前も願い事してみたら? 雨男じゃなくなれるかもしれないぜ」
「……晴れたら言ってくれ」
僕らは会計を済ませ、合羽を身につけた。目的までは10分ほど歩くらしい。
「じゃ、行こっか」
げんなりした顔の僕を連れて、椎橋は願いの叶う丘へと向かっていった。
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