晴れ乞い

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晴れ乞い

 道があるかも分からない道を通って、僕らは雨の中を歩いた。  歩き続けると突然開けた場所に出た。椎橋(しいばし)はここが例の丘だと言った。  なるほど、木々に囲まれていて街の明かりはあまり届きそうにない。街灯もいくつかあるにはあるがまばらだし、その数少ない街灯も全然明るくなさそうだ。  天体観測の名所というわけではなくとも、普通に星空を観察することはできるだろう。  ただし、晴れていれば。 「ここなら人目にもつかないし……どう?」  雨をやませるためには泣く必要があるから、人目のあるところではやりづらい。その点で言えばこの場所は悪くない。  椎橋(しいばし)は折りたたみ傘を僕の上に広げてくれた。断るにも断れないじゃないか。 「やるだけやってみる」  僕はそう言って指を組み、どす黒い空を睨んだ。  涙を流す。朝飯前だ。昔散々やったから。3秒もあれば泣ける。  ついでにできる限り心の底から願いをかける。晴れますように。僕らにきれいな天の川を見せてください。  手応えは、ない。  視界の隅で何かが動いた。椎橋(しいばし)の方を盗み見ると、傘を両手で握ってキツく目を瞑っていた。お前が晴れを乞うても意味ないだろうに。心の中でそう呟いた瞬間に椎橋(しいばし)は目を開いてしまった。  椎橋(しいばし)に何か言われる前に僕は目を瞑った。  僕が「諦めよう」と言ってしまったら――あるいは考えてしまったら――、きっと椎橋(しいばし)ももう引き止めはしないだろう。僕の思考一つに今日の行く末がかかっている。  まったく、厄介なことになった。  視界を塞ぐと自分が今自然の中にいることを実感する。雨が降る音と木々の擦れる音がハッキリ聞こえる。  この空間が晴れ渡っている様をなるべく鮮明に想像する。冴え渡る空気と、真っ黒の夜空に散りばめられた星の数々。もちろん涙を絶えず流すことも忘れない。  指先が冷たくなってきて、恐る恐る目を開けた。辺りはだいぶ暗くなっている。  薄暗い街灯の光に照らされて、雨は未だに降り続いていた。
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