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3.
その日は夜中から明け方にかけて雨が降っていたらしく、八時前に目を覚ますとベッド横にちょこんとテルちゃんが座っていた。
「おはよう」
寝ぼけ眼で挨拶をする。
「おはようっ。ずっと待ってたんだよ。もう、お寝坊なんだから」
呆れるように言ってから、少女はクスクスと笑う。寝起きに元気すぎる声を聞かされて、耳が痛かった。寝坊なんて言われるほどの時間じゃないし、そもそも起きなくちゃいけない予定なんてある筈もないのに。
のっそりと起き上がり、ゆるゆると伸びをする。
また、何も無い一日が始まった。
何が楽しいのかニコニコと笑うテルちゃんをぼんやりと眺めていると、突然、部屋のドアノブが回された。鍵を掛けていなかったら無理やり入られているところだ。
またか。
私はうんざりとしながら、黙ってドアを見つめる。
「今日も学校行かないのか?」
ドアの向こうからお父さんが語りかけてくる。怒っているのに、それを見せないように穏やかに努めているような声色。
「いつまでこうしているつもりなんだ? 他のみんなはちゃんと学校に行ってるんだぞ。ひとりで悩んでいても何もわからないぞ。少し話をしないか?」
そこまで聞いて、耐えきれなくなった私は布団に包まって耳を塞いだ。嵐が去るのを洞穴の中で耐える小動物のように身を縮こませる。
何分経っただろうか。布団の中でじっと耐えていると、外から揺すられているのを感じた。
恐る恐る布団から顔を出すと、少女が心配そうに覗き込んでいた。
「もう行ったよ」
「そう。ありがと」
お父さんの声が聞こえなくなっているのを確認して、布団から這い出る。汗で服がぐっしょりと濡れていて気持ち悪い。
「大変だねえ」
見た目の幼さ相応ではないしみじみとした口調で少女は言った。いや、そもそも、この子が何歳なのかは分からないのだけど。
「毎日、毎日。もう面倒以外の何モノでもないよ。そりゃあ、言ってることも分かるけどさ……」
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