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1.
雨。雨。雨。
六月の終わり。梅雨。今日も今日とて、窓の外では雨が降っている。カーテンレールにぶら下がった、丸めたテッシュをもう一枚のテッシュで包んで輪ゴムで縛っただけのお手製てるてる坊主なんてなんの効果もない。まあ、信じてもいないけど。
全ての音をかき消してしまうくらい大きな雨音。ゲリラ豪雨だろうから、てるてる坊主なんかに頼らずともすぐに止むだろう。
雨は嫌いな人も多い。外出したら濡れてビショビショになるし、気温が高いとジメジメして蒸し暑くなる。洗濯物も乾かない。嫌いな人の言い分も理解できる。
でも、私は雨が好き。
部屋の中で聞く雨粒の音は心地良いし、雨の降る街の光景はずっと見ていられるくらい心が落ち着く。
それに、雨は誰の上にも平等に降る。不幸みたいに私の上だけなんて理不尽に降らない。勉強も運動も得意なクラスの人気者の上にも、私をイジメた奴らの上にも。みんな平等。
そして、雨上がりには……。
あ、止みそう。
さっきまでの轟音が嘘のように雨はピタリと止み、見る間に分厚くて黒い雨雲の隙間から陽の光が差し込んでくる。
カーテンを閉じて、ベッドに腰掛ける。外の光は分厚い遮光カーテンに遮られて部屋は薄暗くなる。これくらい暗いほうが落ち着く。
まだかな。まだかな。
カーテンレールに吊るされたてるてる坊主を見つめる。すると、てるてる坊主はボコボコと波打ちながら膨らみ、重量がないかのようにふわりと浮かんだかと思うと、ほとんど音も立てず床に着地した。
さっきまで、不器用な私手作りの不格好なてるてる坊主だった物は、白い布をローブのように頭から羽織った六歳くらいの女の子に変わっていた。
「こんにちは! カホ! 今日は何して遊ぶ?」
「こんにちは。テルちゃん」
元気に手を上げて挨拶する少女に心は弾んだが、そんなことはお首にも出さず、私は控えめに微笑み返す。中学生にもなって大きな声で挨拶なんて、恥ずかしくてできない。
「そうねえ……」
私は顎に人差し指を当てて、悩む素振りをする。
考えたところで、この狭い部屋の中で出来ることなんて限られている。子供向けのおもちゃなんて持っていないし。
「またアニメでも見る?」
「うん! 昨日の続き!」
私の提案に、少女は大きく頷いた。PCを起動し、動画サイトでアニメを再生する。女の子がアイドルを目指すアニメ。
テーブルの上にPCを置いて、二人並んで床に座る。ポップなテーマソングに合わせて、少女は楽しそうに肩を揺らしている。もうアニメに夢中で、私なんて目に入っていないようだ。
そんな無邪気な姿を見つめながら、私は顔を綻ばせる。
特にアニメが見たいわけではない。内容なんてなんでも良い。
ただ、誰かが側に居てほしいだけだから。
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