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 言っているうちに自信がなくなってしまい、後半はゴニョゴニョと自分でも何を言ってるのか聞こえなかった。  分かってる。お父さんの言っていることは正しい。正論。いつまでもこうやって引き籠もっていて良いわけがない。ずっと目を閉じて、耳を塞いでいても何も変わらない。おかしいのは私。普通じゃないのは私。  理解しているからこそ、お父さんの言葉が私を責め立てる。心が抉られる。  私の気持ちなんて分からないくせに。と反発してしまう。 「そっか」  分かってくれたのか、いないのか。少女はポツリと呟いた。 「カホは何も言われたくないの?」 「え? まあ、そっとしておいてほしい、かな」 「なら、お父さんが居なくなったら嬉しい?」 「……今は顔を見たくないかも」  口に出してから、はっと我に返る。自分の口から溢れ出た言葉が、一瞬理解できなかった。  その言葉を聞いたテルちゃんは口角を釣り上げて、どこか嫌らしい笑みを浮かべていた。 「そっか、そっか、それがカホのお願いなんだ」  少女はこれまで見たことがないくらい嬉しそうに飛び跳ねながら、歌うように節を付けて言った。 「え? いや、お願いじゃなくて……」  私の声なんて耳に届いていないみたいに、言い終わる前に少女はてるてる坊主に戻ってしまった。  さっきまでの騒がしさが幻だったように静かになった部屋と、立ち尽くす私。部屋の真ん中にぽつんと転がったてるてる坊主を優しく掴んで、カーテンレールへと戻した。  初めて見る少女の姿になんだか嫌な予感がして、心臓がバクバクと忙しなく鳴っていた。  けれど、私は強く止めることもしなかった。それは、あんな小さな子に何が出来るのか、彼女は優しい子だからきっと何も起きないだろうと楽観していたから。  それに、私の気持ちを考えてくれないお父さんなんて、少しくらい痛い目を見ればいい。と願っていたのもまた事実だったから。  
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