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 ガチャガチャ。ドンドン。  けたたましくノブが回され、ドアがノックされる音に私は目を覚ました。  今日もか。  うんざりとしながら、のそのそと布団から出て時間を確認する。七時三十分。今日はいつもより早いな。それに、ドアノブを回す音も激しいような。 「カホ、カホ、ちょっと開けて、お父さんがっ」  訝しんでいると、焦ったお母さんの声が聞こえて、私は慌ててドアの鍵を外した。同時に、ドアがぶつかってきそうな勢いで開けられ、お母さんが入ってくる。 「ど、どうしたの? お母さん」 「お、お父さん知らない? 居ないの」  鬼気迫る表情でお母さんが詰め寄ってくる。その勢いに気圧され、私は小さく首を横に振るしか出来なかった。 「お父さん、どうしたの?」 「分からないわ。朝起きたら居なかったの。今日も仕事のはずだし、どこかに行くとも話してなかった。カホはなにか聞いてない?」  聞いてるはず無い。だって、もうずっとお父さんと口を利いていないんだから。  ――お父さんがいなくなったら、嬉しい?  ――そっか、そっか、それがカホのお願い事なんだ。  少女の嬉しそうな声が蘇る。  あれは、まさか本当だったの?  けれど、てるてる坊主の仕業だなんてお母さんに言ったところで信じてもらえるはずもなく、ふざけているとしか思われないだろう。  結局、お母さんを落ち着かせる方法も思いつかず、お母さんは「け、警察、いえ、先に仕事場かしら?」と当てにならない私を置いて階段を降りていった。  一人、取り残される私。  カーテンレールにぶら下がったてるてる坊主を見る。 「どういうこと? テルちゃんはなにか知ってるの?」  しかし、てるてる坊主は脳天気な表情のままで何も答えてくれない。  お母さんの焦りが伝播したのか、その表情に妙にイライラした。てるてる坊主を掴んでカーテンレールから引きちぎる。 「ねえ、答えてよ。ねえっ、ねえっ」  何も答えてくれないなら、いっそ、このまま首をねじ切ってやろうかと思った。  でも、出来なかった。  もし、ここでてるてる坊主を壊してしまうと、二度と少女は現れないかもしれない。そうしたら、お父さんがどうなったのかも分からなくなってしまう。そもそも、これが少女の仕業だって証拠もない。  それに、お父さんが居なくなればいいと願ったのは私だ。テルちゃんはお願いを聞いてくれただけ。悪いのは私。  色々な考えが頭の中でぐるぐると巡っている。  てるてる坊主を見ていると、どうしてもニコニコと無邪気な笑顔で膝に座る少女を思い出してしまい、手に力を込められない。  だって、テルちゃんと一緒に話したことも、過ごした日々も本当で、私の唯一の友達だったから。  ねえ、私はどうしたら良いの?  答えてよ。テルちゃん。
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