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5.
「ねえ、カホ。カホってば」
はっきりと、少女の声が聞こえた。誰かが、小さな手で体を揺すっている。眠っていた私は眠気眼を少しだけ開くと、暗い部屋の中にぼんやりと小さな子供の頭が目に入った。
これは……。
「テルちゃん?」
布団を跳ね除けて飛び起きる。その勢いに驚いたらしく、ベッド横のテルちゃんが少し体を仰け反らせた。
「もう、びっくりするじゃない」
「ごめん……」
少女はいつもと変わらないニコニコ笑顔で私を見ている。もしかしたら、お父さんを何処かに隠したかもしれないのに。
「あ、あのね、テルちゃん。お父さん……」
そこまで口に出してから、言って良いものかと躊躇して口を噤んだ。
まだお父さんは帰ってきていない。職場にもお母さんが確認したが無断欠勤らしく、警察にも相談しているらしい。
だからといって、この子がやったなんて証拠はどこにもない。もし疑ってしまえば、この子との友情も無かったことになってしまうかもしれない。
そうしたら、私はまた一人ぼっち。
口にできるはずがない。
バツが悪くなって口をパクパクさせていると、テルちゃんが先に口を開いた。
「お父さんのことでしょ? うん。わたしがやったの。カホが居なくなれってお願いしたから。どう? お願い、叶って嬉しい?」
自分で口にしている言葉の意味が理解できていないかのように笑顔であっけらかんと言う少女に、わたしは言葉を失ってしまう。
その時、急に思い出した。
たとえ数日間一緒に過ごして友情を感じていたとしても、この子はてるてる坊主から変化した得体のしれない存在なのだということを。
「えっと、も、もう良いよ。充分だから元に戻して」
冷静に努めて言ったつもりだったのに、私の声はあからさまに震えていた。
お父さんに何をしたのかは分からない。でも、この子がしたのなら、きっと戻す方法も知っているだろうと、うまく働かない頭でどうにか言葉をひねり出した。
「今日もお願いを叶えに来たの。ごめんね」
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