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それなのに、テルちゃんは私の言葉など耳に入っていないようで、自分の言葉を優先した。何を謝まられたのだろう?
少女が笑顔のまま近寄ってくる。その姿がなぜだか不気味に感じて、私はゆっくりと後退る。
「な、何のお願い? 私はもう何もお願いなんてしないよ」
「うん。カホのお願いじゃないもの。村杉凪って女の子だよ。十三歳の……あ、カホも十三歳って言ってたよね。知ってる?」
村杉凪。知ってる。忘れられるもんか。私のクラスメイトで、明るくて可愛くて、いつも誰かの中心にいるような人気者。
そして、私をイジメていた子だ。
私をイジメて学校から追い出したくせに、その上、殺そうとするだなんて、意味が分からない。それに、そんな奴のお願いを聞いてしまうこの子もこの子だ。全く理解できない。
「お願い、叶えてもいいよね?」
身を翻すと、私は部屋から逃げ出そうとした。
しかし、鍵は開けたのに、どれだけドアノブを捻っても、体当りしてもドアは開いてくれなかった。
「お母さん! 助けて! お母さん!」
時間なんて気にもせず、ドアを殴りつけながら、出来る限り声を張って助けを呼ぶ。
それでも、お母さんは来てくれない。それどころか、いつもは聞こえている、近くの大通りを走る車のエンジン音も、煩いくらいに鳴いている蛙の声も、何も聞こえない。聞こえてくるのは、しとしとと降る雨の音だけ。
「ど、どうしてもお願いは叶えなきゃいけないの?」
「そうだよ。だって、そういう決まりだもの」
「それは友達でも? 私たち、友達、だよね?」
「友達でもだよ。そのお願いでわたしとカホは友達になったんだから」
私の問いに少女は特段反応を示さずに答える。
お願いしたから、友達。その言葉に私は深く傷ついた。お願いされたから、仕方なく友達だったと言わんばかりの物言い。中身の伴っていない契約上の関係だったと突き放されたように聞こえた。
けれど、今は傷ついてもいられない。助かるためなら、すがるしか無い。
「友達なら、どうして殺そうとするの? 一緒に遊んだこと、思い出してよ。他の人のお願いなんて聞かずに、助けてよ。ね?」
必死に言葉をひねり出す私を見ながら、少女は呆れたようにふっと息を吐いた。
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