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「あのね、お願いは誰にも平等に叶えてあげるの。誰かに贔屓なんてしない。カホのお願いも、村杉凪って子のお願いもみんな平等。分かるよね?」  ――雨は誰の上にも平等に降る。不幸みたいに私の上だけなんて理不尽に降らない。勉強も運動も得意なクラスの人気者の上にも、私を虐めた奴らの上にも。みんな平等。  そっか、雨も、てるてる坊主にお願いすることも一緒。良いことも悪いことも、みんなのお願いを平等に叶えてるんだ。納得したくはない。でも、心は納得しかけてしまう。 「ど、どうしてわたしが殺されなきゃいけないの? 私、村杉さんに何もしてないよ?」 「うーんとね、なんか、試してみたかったみたいだよ。お願いが本当に叶うのかどうか。初めてみたいだったから」  そんな理由で? 本命の願い事の前段階。お試しで私は殺されるの? そんな、そんな……。 「な、ならさ、村杉さんを先に殺してよ。お願い。みんな平等にお願い聞いてくれるんでしょ? ね? ねえっ?」  少女に縋りついて私は言う。そこに友情なんて微塵も無い。願いを叶える者と、願う者。あからさまな上下関係。 「うーん。そうだねえ」言いながら、少女は窓を見やる「あ、雨上がったみたいだね」 「え?」  少女に合わせて、私は意識を窓の外に向ける。 「お願いごとは雨上がりに叶える決まりだから。さ、死んで」  と、私の首に何かが食い込み、何もなかったはずの後ろから力強く引っ張られる。ロープだ。首から解こうと藻掻くけど、ロープはそれ以上に強い力で引っ張られて首に食い込んでくる。呼吸もままならなくて、どうにか酸素を吸い込もうとする私の口からは間抜けなうめき声が漏れていた。 「先にお願いしたのは向こうだから、先に叶えるね。大丈夫、安心して。カホのお願いも後で必ず叶えてあげるから」  上から吊るされるように引っ張られて、痛みと苦しさで頭の中が塗りつぶされていく。  窓に映った私の姿は、まるで、大きなてるてる坊主に見えた。 「て、テルちゃ……」  助けを求めて手を伸ばすけど、少女はニコニコといつも通りの笑顔で見つめているだけだった。  私はもうすぐ力尽きて死ぬのだろう。その後、村杉凪も同じように殺されるはずだ。道連れ。ざまあみろ。 「そうだ。私だけが死ぬなんて悔しいから、みんなみんな殺してよ。全員、平等に死ねば良い。お願い。叶えてくれるよね。テルちゃん」  今際の際に浮かんだお願いが口にできたのか、私には分からなかった。
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