そして……

1/4
前へ
/4ページ
次へ
今日は朝からしとしと雨が降りしきっていた。 この式場で結婚式を挙げる花嫁は、不服そうな顔で建物の中に入っていった。 式場の予約は何ヶ月も前のことなので、当日の天気については誰も予想できない。 それにもかかわらず、彼女は式場の係員に八つ当たりをしていた。 相変わらず、自分本位な人だと思った。 今頃は、この建物の中で招待客相手に見せかけの笑顔を振り撒いているのだろう。 「…………」 雨の中、傘を差して佇む。 傘越しに、ぼたぼたと雨の音が重く響いた。 今日の私は、駐車場での客の案内と車の管理を担当するスタッフだ。 順調に式が進む中、私は暇を持て余している。 否、本当は時間を気にしている。 大切な大仕事を果たす為のタイミングを伺っているのだ。 午前11時45分。まだ早い。 携帯端末を取り出して時刻を確認すると、それを再び懐の中に仕舞い込んだ。 そうして、目の前の白いチャペル風の建物を改めて見据える。 私にとって、最後となる仕事場だ。 (もうすぐ終わる。全部) そう思うと、口元に笑みが浮かびそうになった。 いやいや、まだダメだ。まだ終わってない。 それどころか、何も始まってすらいない。 (思えば、あれ以来良いことなんて一つも無い人生だったな)
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加