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「はぁ……」
教室にたった一人きりで、寂しく学校の机に座る朝がこれまでにあっただろうか。
「んぁ、天江か?」
「え……?あぁ、なんだ。櫻井先生か。」
「なんだとはなんだよ。珍しいな、お前が朝早くから学校に居るなんて。しかも一番乗りだぞ?」
「ああ、うん、色々あってね、」
櫻井要先生。数学教師であり、この世界の攻略対象キャラの一人である。
「はは、色々ってなんだよ。気になるなぁ。」
32歳、好きなモノはお酒と煙草。
しょっちゅう国語や家庭科の女の先生と放課後歩いているのを見る。
いや、理科の女の先生とも歩いてるのを見た気がするなぁ。
それが校内での話なら別にまだ良いんだけど……
「あ、佐伯先生からメール来た。」
近くの業務スーパーやらカラオケやらで見かけることもしばしば……。
プライベートはガチっぽいから辞めて欲しい。
せめて生徒の居なさそうなところでやってくれよ。
あの現場を発見してしまったときの一方的な気まずさと言ったら……
「”愛してるよ、鈴木ちゃん”っと。」
「え、鈴木先生……?」
「あ、やべ。名前間違えちゃったなぁ。」
とまぁご覧の通り、結構偏差値の良い大学に進学していたと自負する櫻井先生ですが、勉強以外はとんでもなく馬鹿なんです。
どこかの女子生徒が落として行った髪飾りを踏んずけて掃除中に階段から転げ落ちたり、それで落ちた拍子にほうきを真っ二つに折ったり。
今みたいに佐伯先生と鈴木先生の名前を間違えたり。
プルルルル、プルルルル、プルルルル……
すると突如、櫻井先生のスマホから音がなり始める。
「あ、やべ。鈴木ちゃんから電話来たんだけど。」
「いやだから佐伯先生だっての……」
「ちょっと天江、どうにかしてくれよ。俺が悪いんじゃねぇんだってば。」
「いや、あんたは佐伯先生と鈴木先生に一発ずつ殴られた方がいいよ。」
「先生に向かってなんて態度だ。お前、このままだとあれだからな、あの〜……生徒指導するからな。」
「え〜、人の名前を間違えるような佐伯先生に出来んの?」
「俺は櫻井だ。」
……俺、一個だけは自信あるわ。
絶対櫻井先生だけは攻略する人間は居ないっててことを。
こんな人のどこがいいの?
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