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「……なーんでこうなっちゃうんだろうな」
「天気予報とか見ないからじゃないか」
とんでもない雷と雨が通ったかと思えば、次の瞬間には晴れている。
そんな不安定な夏の空。
晴れ間だと思って買い物に二人で出たはずだった。
念のために持って行った傘も意味を成さず。
服も上着を通り越して内側まで、靴も貫通して靴下もびしょびしょに濡れてしまっていた。
今はまた晴れているので、時々少しだけすれ違う人達は全く濡れて居ない。
それがまた何とも言えない気持ちだった。
「天気予報で分かるレベルの天気か?」
「多分だけど、天気予報士も匙を投げるレベル」
「だよなぁ」
一応スマホを開いて確認したけれど、予報としては大したことは書いてなかった。
地域ごとに天気が違いすぎて、よほど細かい予報でも出さない限り当たらない。
それこそ県だの市だのでは雑としか言いようがないぐらい。
この地域は天気予報は当たらず、晴れの予報でも高い気温のせいか雷雨に見舞われる。
そして、ものの見事にその犠牲になったのが俺達だった。
別に雷に打たれたとかではないが、しばらく立ち往生したのは事実だ。
「タイミングが悪いのかな」
「いや、ここで行かなきゃ食糧がなかった」
「そうなんだよな……毎日出かけるぞーって時間が、雷雨」
「わかる」
「いっつも『いやー雨上がりで空気が気持ちいいねー』なんて言ってる間に次が来る」
「そう。晴れ間にどこかへ、なんてとんでもない脚力でも無ければ無理」
「普段から運動不足の俺達にはどだい無理な話」
はぁ、と深いため息をついて濡れた身体で家を目指す。
食糧自体は確保したし、目的は達成した。
次の雨が来る前に帰るしかない。
「……あ」
「ん?」
「でも、出かけたのは悪くなかったかも」
「何がだ?」
「あそこ、見て」
指さした先を見ると、そこには七色の橋が俺達の住むマンションに向かって架かっていた。
あの位置は、中に居たら多分見えないだろう。
「虹だな」
「うん」
「……あの橋わたってそのまま帰りたいな」
俺がぽつりとつぶやくと、相手は苦笑いした。
「それさ、ロマンチックに聞こえるけど」
「なんだ」
「地上の曲がりくねった道ときつめの坂をショートカットして真っすぐ帰りたいって意味だよね……?」
「良くお分かりで」
「何年付き合ってると思う?」
ドヤァ、という書き文字が漫画なら似合うだろうなと思った。
それがちょっとむかついたので、ひねくれた答えを返した。
「ほんの三か月前から」
「……幼稚園からの幼馴染なんだけどな」
「そうだな」
「だから、大体お前の考えてること、は」
目を瞑って得意げに話す男の唇を、軽く奪った。
「何を驚いてるんだ?」
「いや、だって、そりゃ」
「分かるんじゃなかったのか、俺の考えてる事」
「そ、れは、分かんないよ……! 大体ここ道端で」
「安心しろ。誰も居なかったよ」
天気予報ではもう一つ、大きな雨雲が近づいている。
人通りが少ないのを、先に確認していた。
「俺も、虹を通って帰りたい……」
「夕暮れだから傍から見たらわかんねぇよ、お前の顔が赤いのなんて」
「お前はわかってんじゃないか!」
「そりゃ分かるよ。幼稚園からの付き合いなんだ」
顔を俺から隠すように覆いながら、ゆっくりと歩く男に歩幅を合わせて続けた。
「あと、好きな男だからな」
「……ずるいよ」
「ずるかないだろ」
付き合い始めて三か月。
つかの間の晴れ間の中を、お揃いのびしょ濡れになった服で。
俺達は幼稚園から見慣れた道を通り過ぎながら。
虹が消える前に、雨が降る前に。
新しい家を目指すのだった。
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