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「いいから、バイトだが部活だが行ってこい」 蹴る勢いで追い出そうとした、その時。 チャイムが鳴った。 何かを配達で頼んだ覚えも、ましてやわざわざ尋ねてくるほどの親しい間柄の人間はいない。 あいつならそれらが当てはまりそうだと睨んでいると、その気迫と玄関から近くにいたのもあって奴が出た。 アパートのために部屋はそこまで広くない。 だから、開けた時来た相手が分かった。分かってしまった。 それは絶望で固まってしまうぐらいに。 「母さん、なんでここに⋯⋯?」 母さん。 それは匡と共通の親でもあり、そして、この世で最も恐れている人物。 祥也も思った疑問を匡が代わりのように訊いた。 「なんでもかんでもないでしょ! 何日も帰ってこないのだから!」 大げさに騒ぐ母親の声にビクつき、それから段々と呼吸が浅くなっていく。 数日前から匡が帰ってこないのを心配し、捜していたら辿り着いたのだという。 だから、警察官を伴っていたのか。 「だから! おれは家出したんだ! クソババア、人の話を聞けよ!」 「その口の聞き方は何?! あんなのと一緒にいるから悪い影響が出たのね。ほら、こんなオンボロアパートにいないで早く帰りましょうね」 「だから、おれは帰らないって言ってんだろっ!」 玄関先で言い合う親子の姿を息をするのもやっとである祥也は、ただ見ていることしかできなかった。 「しょーやさま、だいじょーぶですか⋯⋯?」 腕の中にその声が聞こえてきた時、その存在がいたことに改めて感じ、大丈夫だと言葉代わりに、そのぬくもりを確かめるように弱々しく抱きしめた。 そんなことしかできない間に警察官が二人の間に介入したようで、いつの間にか耳障りな言い合いが聞こえなくなった。
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