愛の子

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「今度の連休、気分転換に旅行でもどうだ?」 夫の修也がソファでくつろぎながら、洗い物をしている美沙代に声をかける。美沙代は振り返りもせずに返事をする。 「そんなお金ないよ。治療費でいっぱいいっぱいなんだから。なんのために私がパートで働いてると思ってるの」 「そればっかりだと息が詰まるだろう」 「旅行なんかより私は子どもがほしいの。少しでもお金があるなら、全部それに賭けたいのよ」 「……」 「それに子どもができてから、子どもも一緒に行った方がきっと楽しいよ」 修也はため息をつき、それ以上、何も言わない。 また別の場面のイメージが流れてくる。 病院の待合室。 無事、妊娠したのであろう若い夫婦が、エコー写真を見て微笑み合っている。 美沙代はその夫婦を見て、ぼそりと呟く。 「ほんとデリカシーないよね…治療中の人もいるのに」 修也は怪訝な表情を浮かべた。 「やめろよ、みっともないぞ」 「本当のことじゃない」 「人は人、自分は自分だろう。自分の不幸に人を巻き込むなよ。喜ばしいことじゃないか」 「不幸って言い方はなくない?っていうか神様って不公平だよね。なんで授かりたくない人に授けて、授かりたい人に授けないんだろ」 「そんなことを言っても仕方ないだろ…なぁ。お前、まだ過去のことを引きずってるのか?」 「…そういうわけじゃないけど」 「過去のことは過去のこと。前に進もうって話したじゃないか」 「それでうまくいってないから言ってるじゃない!」 声を荒げた美沙代に、エコー写真を見ていた若夫婦が驚いて振り返った。修也は、ほら、と言わんばかりにため息をつく。 「もういい。修也なんて、私の気持ち何もわかってない…」 美沙代は顔を背けた。 この日を境に、美沙代と修也の会話は一気に減った。寝室は別々になり、身体を重ねることも一切なくなった。
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