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場面は次々と変わっていく。
会社帰り、疲れている夫にいたわりの声もかけない自分。常にイライラしながらの受け答え、夫が何かを提案すれば責めたてる自分。
美沙代はその様子をみて、ショックを受けた。
なんて冷たい妻、なんて冷え切った関係。
少し前まで笑顔の絶えない、仲睦まじい夫婦だったはずなのに。
美沙代は恥ずかしさを超えて、哀しくなってきた。自分は頑張っているのに。頑張っているはずなのに…。報われないどころか、存在するだけで不幸を撒き散らしているようだ。
目を開けると、木花咲耶姫が優しい表情で美沙代を覗き込んでいる。
「えっと…姫…このはな…」
「木花咲耶姫です」
「木花咲耶姫。私…今までの努力は間違っていたのでしょうか」
木花咲耶姫はゆっくりと首を振った。
「いいえ。子を授かりたい気持ちで、そのための努力をしたことは、間違っていませんよ。
ただ、天上界にいる子どもの目からみて、あなたの家に生まれたいと思うな家庭づくりを、果たしてできていたでしょうか」
「えっ…」
天上界?何を言っているのだろう。
美沙代は意味がわからない。
「天上界と言ってもピンとこないようですね。
あの世とか、天国とか、呼び方はなんでも良いです。
次に生まれようと控えている子どもは、天上界にたくさんいます。
それぞれ『このおうちに生まれたい』『このパパとママの元に生まれたい』と決めてから、生まれているんですよ」
「そんなおとぎ話…」
「今はおとぎ話と思われているようですね。でも、子どもにだって選ぶ権利はあります」
「親を選んで生まれてくるっていうこと…?」
「そうです。そして親子は、だいたい前世でも縁がある人が多いのです。前世で親子だったり、親友、あるいは配偶者などが、来世で子として生まれてくることが多いのですよ」
「待って待って、前世って…」
「聞き慣れないですか。生まれ変わりの話くらいは聞いたことがあるでしょう」
「輪廻転生ってやつ…?」
「その通りです。
とにかく、子どもは前世で縁がある人から親を選び、生まれてくる可能性が高いのですよ。“親ガチャ”なんて言葉が横行しているようですが、とんでもない話です」
「でも、じゃあ私が授かっていないっていうことは、縁がある人がいないっていうこと?」
「そんなことはありません。ただ、あなたの家庭をみて、是が非でも生まれたい!と多くの人が思うようであれば、子に恵まれる可能性は高まるでしょう」
美沙代はハッとした。
冷え切った夫婦仲。絶えない諍い。
こんな家庭に、いったい誰が生まれたいと思うだろうか。
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