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すると、ふと呟くように尋ねる蒔野さん。だけど……心做しか、その声はどこか――
「……確かに、突発的なことだったかもしれません。それでも……あの時の彼の心理状態であれば、衝動的に近くにある物を放ることくらい、想定出来たのではありませんか? ……いえ、貴方は実際に想定していたように思います。なのに……どうして、避けなかったんですか?」
「……それは」
そう、続けて問う蒔野さん。気のせいじゃない……明確に、ひどく震えた声で。
「……お忘れかもしれませんが、私は貴方に生かされたのですよ? 貴方がいるから、私も今生きているんです。だから、もし……万が一にも、貴方に何かあったら……今度こそ、私は死んでしまいますよ?」
「……蒔野さん」
刹那、ぐっと胸が詰まる。……そうだ、僕だ。死のうとしていた彼女に、生きることを望んだのは……生きることを強いたのは、他でもない僕――この命で脅迫して、彼女に生きる以外の選択を与えなかったのはこの僕だ。だから、僕は――
「……うん、分かった。ごめんね、蒔野さん。本当に……本当に、ごめんね」
「……由良先生」
そう、絞るように告げる。声と同様、震える彼女の身体をぎゅっと抱き締めながら。すると、ややあって――
「……次は、許しませんよ? 次、約束を破ったら……今度こそ、許しませんから」
そう、絞るように告げる。言葉に込めた想いを体現するように、僕をぎゅっと抱き締めながら。そんな彼女をいっそう強く抱き締めながら、心の中で改めて誓う。――この約束は、決して違えないと。
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