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ネイビーの雨傘
ゆっくり頭を持ち上げると、そこには、見知らぬ男子学生の顔が、こちらをみて微笑んでいた。
「その制服、第三中学だろ? 僕の高校の前だから入って! 送るよ」
「あ、ありがとうございます」
きっと、いかにも誰か入れてくれないかとキョロキョロしていたのが、バレバレだったのかと、恥ずかしさで彼を見あげていた顔を、一瞬にしてネイビーの傘の天井に反らした。
今朝、父親の紺色の傘を、ダサいと拒否したはずが、今、同じ色の紺色が、ネイビーとしか呼べないほど、爽やかな色にしか見えななかった。
見知らぬネイビーの雨傘の彼と、付かず離れず微妙な距離をとって傘の内に入り、彼の大きな歩調に合わせるように大股で歩いていると
「ちょっと速い? もう少しゆっくり歩こうか?」
「いいえ、大丈夫です。私、歩くの速い方ですから」
今は10月初旬、多少濡れてもまだ冷たさは感じないが、遅れないように、必死な形相で彼について歩いているのもバレバレだったのか、彼はゆっくり歩調をとり始めた。
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