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彼は真面目な顔をして
「君は、もうその答えを出してるじゃないか? ほら、さっき君が立っていた場所を思い出してごらん」
「立っていた場所? 軒下?」
「イヤイヤ! その奥だよ」
確かあそこはコ―ヒ―ショップ (Healing Cafe)だったような。
「コ―ヒ―ショップ?」
「そうだよ。フランス人ならきっと、土砂降りは無理せずに雨が小降りになるまで、コ―ヒ―ショップで、ゆっくりコ―ヒ―でも飲んで待つんじゃないかな?」
「素敵!」
翼は、思わず拍手してしまった。
「そうですよね? 遅刻しても服がビショビショになるより、少し待って授業に集中できるほうがいいですよね」
「たぶん、フランス人はね、そうするな!」
翼は、いつからかネイビーの雨傘ではなく、真っ直ぐ彼の方を向いてお喋りをしていた。
翼は、目を輝やかして
「大粒の雨を見ながら、大きく息を吸って、大人の香りを味わってからコ―ヒ―を飲む…なんて素敵な光景!」
「でも、フランスでは通用するかもしれないけど、日本では無理だろうね。遅刻の理由が、土砂降りでコ―ヒ―ショップで雨宿りしてました。なんて言えないよな」
「じぁ、私、フランス人になります!」
「えっ? ハッハッハッ! じゃぁ頑張ってフランス人になってください」
笑い合っていたら、雨も小降りになり、数メートル先に中学の校門が見えてきた。
「ありがとうこざいました。後は走れば直ぐですから、ここで結構です」
彼は優しく微笑んで
「じゃぁ! 頑張ってフランス人になってね」
「はい! 頑張りまあ〜す!」
私は手を振りながら、一目散に玄関ホールの下駄箱まで走った。
途中で見上げた空は、雲の切れ間からスカイブルーの空が覗いていた。
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