あなたが嚙んだ指

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「今何時?」 ベッドサイドの時計を見ると、もうすでに深夜も越えた時間帯だった。 「帰らなくて平気?」 そう問う尊に「平気」と答える。 「別に……おれが何をしていようと、何時に帰ろうと……帰るまいと全然関係ないから」 「そう」 尊の手が伸びて、おれの左手を掴む。そして鈍い光を放つ指輪をいじると、そのまま口の中へと入れた。 「っ、尊?」 「噛み切っていい?」 「え」 「この指ごと。噛み切って、食ってしまってもいい?」 カツ、と音を立てて指輪に歯があたる。 「____いいよ」 尊がしたいと望むのなら。おれは全てを受け入れる。 さっきより強く、歯が当たった。硬いもので噛まれた指がピンと伸びる。 「晃」 もっと込められた力に、思わず瞳を閉じる。その痛みさえ受け入れれる気がした。 ふと、温かいものが手の甲を滴り落ちた。そっと目を開けると薬指の付け根から赤い液体が甲を伝っていた。 尊が本気で噛んだらしく、指輪にそって歯型がつきそこから赤い血が流れ落ちていたのだ。 「……っ」 じっと見つめていると、尊の舌が血を舐めはじめた。 「痛かった?」 「そりゃあ……痛いよ」 「逃げないの?」 おれの手を持ち上げて、血を吸い上げる尊の口元が赤く染まっている。 「逃げないよ」 尊が与えてくれるものだから。 「そうか」 ピチャピチャと音を立てて尊がおれの血を吸う。 尊の体液がおれの中にまだあって、そしておれの体液が尊の中に入っていく。 現実離れした光景に、おれはブルリと震えてしまった。 「怖い?」 指を舐めたまま尊が視線を投げかけてくる。 「怖く……ない」 ぼんやりと尊を見つめてしまう。 ___キレイだ おれを欲しがる姿も、貪る姿も。 「ヤバイくらい」 「え?」 腕まで流れた赤を追って、尊の舌が這っていく。 「尊……もっとずっとおれを欲しがっててよ」 「___いいの」 いいよ。 おれの全部を喰らい尽くして。尊の中に取り込まれて一つになって、快楽の限りをつくしたい。 「晃」 最後にもう一度薬指を齧ると、尊は傲慢に微笑む。 「晃はおれのものだからな」 「うん」 ずっとずっとそうだ。 いつになっても、どんな風になったとしても。 おれは尊には抗えない。 尊の存在がおれを揺さぶる。 「いいよ。おれは、尊だけのものだ___」 暗がりの中で獰猛に光る目を見た。おれを欲しがる尊の瞳。 血の滴り落ちる指を伸ばせば、それを掴む尊がいる。 ____愛してる たとえどんなに歪んでいたとしても。 fin
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