涙よ届け

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親愛なる息子の正美へ。 驚きましたか? この手紙は、美幸の死期が近いとわかり、覚悟して書いています。 タバコ屋の裏の世界には無事に行けたでしょうか? 浅葱さんは魔女だと怯えたかもしれませんね。 こういう裏の世界での裏市というものはね、ある一定の人達は 知っているものなんだよ。 たとえば、うちの家系とかもそうだった。 父、要するに正美の祖父にあたる相手は、商売もしていたんだ。 父の場合は『怒りの炎』だったと聞いたよ。 どうしようもない憤り......。 妬み、憎しみ、嫉妬、それらの感情、正にメラメラと燃えるモノを 心から取り出し、特殊な瓶に詰めた『炎』にして閉じ込めるんだ。 そうすると心が鎮まる人たちがいたそうだよ。 そういう裏稼業をすっかり辞めてしまったのは、表の世界のほうが 大切になったからだ。 結婚して俺が生まれたからね。 そんな父だからこそ、俺が18歳で結婚することを許さなかった。 それは、自分の子の未来として望むものでは無かったからだ。 父に、母に、親類に、もちろん理解してほしかったけどね......。 それは仕方ない。 ともあれ。 父が俺に渡してくれた特殊な通貨3枚、これを使うときが来た。 正美、美幸の涙を買ってきてくれ。 どれでもいい、正美が望むものを。 望む思い出を。 それを俺に渡して欲しいんだ。 このブログは鍵付きで、パスワードを入力しないと読めない。 正美にしか読めないように書いてある。 要するに口にするには照れる『手紙』なんだ。 長くなるけれど、俺と美幸との思い出を書いておくよ。 とても大切な『涙の思い出』を。 正美、この中から、もしくはもっと違うものから、選んで欲しい。 それを俺へと届けて欲しい。 それがきっと、父と息子としての再出発になると思うんだ。
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