涙よ届け

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父は小箱の包装を開けた。 黒いキャップに茶色い小瓶で、白いラベルが貼られている。 僕が父に届けるべきだと思った『涙』それは......。 父との初デートで手作り弁当を作ろうとして、おにぎりをうまく 三角にできなくて、悔しくて泣いた。 そんな、ささやかな『涙』だった。 これが最も母らしく、可愛らしく、そして幸せに思えたからだ。 「初デートか、よく覚えてる。学園祭の振り替え休日だった。 小さな公園で、お弁当を広げた『うまくつくれなかった』なんて 言ってたなあ。あぁ、おにぎり、確かに変なカタチだったけど、 おいしかった。気にしてなかった。 こんな涙があったなんて......知らなかったよ。 ありがとう、正美、届けてくれたから知れた、ありがとう!」 僕らは顔を見合わせて笑い合った。 きっと、同じ顔をしていたと思う。
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